※多分昭和45年頃


私が花巻に寄ったのは、五能線のハチロク(8620形)津軽鉄道のストーブ列車、旧型国電の宝庫だった弘南鉄道への旅行の途中のこと。

少し前に花巻電鉄は廃止になっていた。それでも寄ってみようと花巻駅に降りると跨線橋があり、駅本屋へ行く反対側が花巻電鉄に乗る改札口になっていた。改札は板で閉鎖されていて行くことはできない。跨線橋の窓から見ると車両が放置されているので、国鉄の改札を抜けて街を歩き線路を渡たる。花巻電鉄のホームに行く途中で、車両がたくさん屋根を下にしてひっくり返っている異様な光景に出会った。窓の支柱をバーナーで焼き切って、解体作業をしていたのだ。

もう少し歩くと、木造の天井が高い車両工場があった。廃止になっていたので工場内はもちろん無人、中に入ると旋盤やらヤスリやら、いろいろな工具がそのまま残っていた。

さらに進むと、一段低いホームがあり、レールは撤去され枕木だけが残っていた。まだ解体されない台車がついた車両が置いてあって、軽便鉄道なのに乗降口にステップが付き、集電はポール、胴体は大きな広告が描かれていて、まるで路面電車のようです。

構内の隅に蔦がからまった、うす汚れた車体がある。窓ガラスも割れて白く汚れている。これが噂に聞いた馬面電車「デハ3型」だった。扉が開くので中入ってみると、相対する座席の間が極端に狭く、座ると前の人の膝が触れそう。コンローラーを動かしたりして時間を過し、津軽に向かいました。

花巻電鉄の馬面電車について

デハ1・2・3と造られていて、デハ1が木造、半鋼製のデハ2と3が増備されている。私が見たのは半鋼製の「デハ3」でした。


中川浩一 金城光英 加藤新一 瀬古龍雄 共著
丹沢新社「軽便王国雨宮」より

花巻電鉄デハ1

大日本軌道鉄工部(雨宮製作所)の製造。出力はわずかに11.2kw1(デハ2大正12年製の場合)にすぎなかった。台車はPeekhamの単台車に類似したもので、大日本軌道のイミテーションであろう。